この物語には、祖母・母・長女・次女 それぞれに幸せを感じたり、悩んだりします。まるで令和版『細雪』みたいだなとか思いましたが、豪奢なお着物シーンなどは出てきません^^
四人四様、これからの人生を歩むにあたってお金の問題に直面するのです。
それぞれどう改善しようとするのか、マネーリテラシーが問われるような小説なのです。
『三千円の使いかた』原田ひ香 中央公論新社 中公文庫
東京都北区の十条、それぞれ近くに住む祖母・母・長女。次女は就職を機に目黒区の祐天寺で一人暮らし。
祖母 琴子73歳。夫を亡くして独居。貯金1,000万円。
夫がいなくなり2か月に一度の年金は16万円。郵貯に数百万円あるけれど、今後もし介護生活になるとしたら、500万円以上のお金が必要ともきく。安穏とはしていられない。
日々のちょっとした贅沢や友人との旅行にも躊躇してしまい、これは何のための老後なのかと考え始めた。
以前は虎の子の1,000万円をリュックに入れ(!!)、金利のいい銀行に一時的に預け入れては取り出すという荒行をしていたが、それは手出しができない数か月間が存在する。その間にわが身に何かあればという不安が膨れ上がる。
ほかに手段はないかとハローワークに通ったり、コンビニの面接を受けたりする。
母 智子50代後半。夫と二人暮らし。貯金100万円。
バブル時にOLだった智子はスマホを使っていない。パソコンの研修が行われた世代よりも上なのでコンピュータに苦手意識があるという。(そうなの?)
若いころはちやほやされたが、昭和世代に叩き込まれた価値観を共有する世代でもあるため、同世代の夫は家庭のことを何一つしない。
がんの手術から帰宅した智子は、夫の「料理が作れないなら店屋物でもとるか」という言葉に内心ブチ切れる。
退院した身におかゆのひとつも作ってくれないのか。数週間、そうじもしなかったのか。
自分のために休み休み作った食事を夫が当たり前のように食べるのを見て、言うべきことをいう智子。しかし「母や娘たちをよぼうか?」とあくまで自分ごとに置き換えられない様子に、熟年離婚の文字がよぎる。
長女 真帆29歳。消防士の夫と3歳の娘との3人暮らし。貯金600万円。
短大卒業後、証券会社に勤めた真帆は、学生時代からの付き合いだった消防士の彼と結婚する。
手取り23万円の夫の稼ぎを小遣いに使うのはしのびなく、娘のお昼寝中にポイ活やクレジットカード新規加入でもらえるポイント還元などで小銭を稼ぐ日々。娘が通園しだしたら働こうかと考えている。
もちろん散財はしたことがなく堅実に毎月貯金をしている。目標は娘の大学入学までに貯金1000万円。優しい夫と可愛い娘とのつましい生活に幸せを感じていた。
ある時、玉の輿で結婚する友人を祝う席で、派手なダイヤを見せつけられ、「安月給の男と早々に結婚した真帆」のことを不思議に思っていたという友人たちの本音を聞いて、心が揺らぎ始める。
次女 美穂20代前半。大卒後 祐天寺で念願の一人暮らし。貯金30万円。
自活することを目標にしていた美穂は人生に満足していた。
だが社内の40代の女性のリストラを目の当たりにして、自分が信じていた土台はこんなにもろいものなのか、優しげに見えた同僚や上司、彼氏も古い男性社会を体現しているのだと目の当たりにする。
堅実に暮らす姉を見て、自分のお金について人生について考え始める。
「人は買い物をしなくても、お金を動かしているだけで高揚感はあるのだ。」
これは祖母が感じたことだが、投資をしているとその感情は確かに沸き立つ。たとえ少額でも配当金が出たり利ザヤが生まれたりすると、ひっそりとほほ笑むのは致し方ないことだ。
祖母はまた「あの世に現金を持っていけるわけでなし」とか「死ぬ前にもっと豪遊しておけばよかったと悔みたくない」と貯蓄とは相反する気持ちも持っている。
お金は使ってなんぼ、のような威勢の良く楽しく思える気分と、底をついたらどうしようという葛藤は誰しも感じることだ。
老若男女の登場人物が物語のなかで様々な価値観を提供してくれるのだ。
「まず固定費を削減しましょう」
次女 美穂が姉に家賃や日々のコンビニ代ラテ代などをしっかり見つめなおしなさいとたしなめられ、一旦は反発する。その後、お金のセミナーに行ってみると、そこでも同じことを言われて納得し始める。
その場で意気投合した男性と付き合うようになるというラッキーまであるが、誠実な彼の背負うものに一家で悩むことになる。彼はその重荷をどうにかしたいとセミナーに足を運んだのだろう。どんな人も人生の転機でお金と向き合わざるを得ないとわかるのだ。
夫や彼氏や友人など、彼女たちの周囲に様々な男性が出てくる。それぞれ一癖あるものの、ダメンズでもなければ暴力男でもない、ちまたの男性たちだ。
彼らとどう向き合うか。それにはお金のことがどうしてもついてくる。
どう取り組むのが最善か。彼女たちの立ち振る舞いがこのお話のカギだ。みんな人生の転換点で自分とお金を見つめなおすことができる女性たちなのだ。
それは簡単そうだが習慣を変えるというのは実に腰が上がらないものだと思う。
たった3,000円をどう使うか、真剣に向き合う。
日々は小さく積み重ねることで良くなっていくのだと認識できるお話だ。
家計簿をつけながらどん底から這い上がったあすみちゃんのことを思いだした。↓
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