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『元彼の遺言状』新川帆立氏。メンタル強めの麗子を楽しむ。

『元彼の遺言状』新川帆立 本が読みたくなる

「このミステリーがすごい」大賞作品の中で群を抜いて注目されているのが『元彼の遺言状』だと思います。2022年春には綾瀬はるかさん主演でドラマ化されるとのことです。主人公の麗子さんのメンタルが強い強い。そして軽々と読めるのはエンタメ要素満載だからですね。

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『元彼の遺言状』新川帆立 宝島社文庫

 

お金より大切なことがあるのかと考えている麗子

 

主人公は剣持麗子。丸の内の大規模弁護士事務所に勤務する敏腕弁護士だ。大企業同士の買収などの案件を得意とする。そこらの町弁とは比較にならない稼ぎを得ている。それは弁護士として優秀なだけではなく、鋼のメンタルの持ち主だからだ。

お話は高級レストランでプロポーズを受けた麗子の一刀両断ぶりから始まる。お相手は一流企業の研究者。だが麗子からみれば薄給のサラリーマンでしかない男。

50万円弱のカルティエリングごときで婚姻を受諾すると思うなよ。彼氏もレストランスタッフも読者もドン引きするシーン。映像的なインパクトも十分だ。

女としてはそんな高飛車なセリフを吐いてみたい。ハリーウィンストンレベルでないと認めないとかいってみたい。

頭脳明晰で高飛車で高圧的で美人ときた。想像しうる要素を全て有する彼女。属する事務所とのけんかも辞さない。賞与の減額が原因で上司とやり合い、一旦職場を休職する羽目になる。

物語の目的、遺産相続の話に突入する前に、麗子は少々の金額で動く女ではないことがわかる。

となると、この鼻持ちならない女性がどう意識変革するのか。それを見守る小説だともいえる。

 

3か月付き合っただけの大学の同級生

 

前しか見ていないこの彼女なので、大学時代の彼氏など当然忘却していた。さてその元彼が亡くなったという。

元彼は森川製薬という大手製薬会社の創業者一族、森川栄治。この男が奇妙な遺言状を残していった。

『僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る。』

60億もの莫大な資産を巡る相続だ。

大枠は犯人に譲るわけだが、歴代付き合った彼女たちやお世話になった人々にも土地財産の一部を譲るという付随する遺言も残されている。

法律の専門家である麗子もまた、”もとカノ”というゆるゆるとした枠組みに取り込まれた。森川家に深く関わり始める。

はした金額では彼女は動かない。悲しみが原動力ですらない。動機は「なぜ元彼 栄治はこんな遺言を残さねばならなかったのか。本当に殺されたのか?」という好奇心だ。

 

・・・・・ここ以降はちょっとネタバレ感があります・・・・・

『元彼の遺言状』新川帆立

シスターフッドの要素はあれど、ほぼ麗子の独壇場

 

栄治が住んでいた軽井沢の邸宅で、元カノたちが一堂に会する場面がある。

そこにさまざまなタイプの女性が現れる。

・森川雪乃 栄治のいとこの妻。和風美人。柳腰といったなよなよとした風情の女性。付き合った当初は不倫ではなかったが、栄治がうつ病になってから別れ、いとこと結婚した。

・森川紗英 栄治のいとこ。雪乃の夫が兄。栄治のことが好きだった様子。猪突猛進型。綺麗だとは全く明記されない役回り。

・原口朝陽 栄治担当の看護師。栄治がうつ病になったころに専任になる。論理的で正義を重んじる。

・堂上真佐美 軽井沢の自宅のお隣さんの獣医の嫁。不倫関係。四年前に病没。

 

突出したスーパーウーマンの剣持麗子を筆頭に、たくさんの女性を登場させている。本当はそんな子だったの⁈みたいな意外性はなく、よくあるキャラクターだ。

麗子に追随してきた笑顔の美しい看護師を憎からず思う章がある。ここからシスターフッド感が強くなるのか?と期待した。エンタメミステリから一歩抜け出る要素だ。次の章からはつかず離れず、女二人のバディものに発展するかと思いきや、それほど結びつきは強くなかった。

それよりも栄治の叔父の財力に物を言わせて、ヘリを飛ばしたり、ベントレーを駆ったりして謎を解明していく、マッチョな展開だ。

映像的に「なんでやねん」と突っ込める大がかりな進行が後半を占めていて、最終的には『踊る大捜査線』並みのカーチェイスに発展する。作者が当初から映像化を望んでいたのかは知る由もないが、読み物としては想像しやすい。

 

人との関わりをもっと掘り下げてほしい

 

もの足りなさは人間関係の深み。伏線としての経歴や目撃談だけで、駒の役割をする登場人物が増えていくためだろうか。町弁の村山先生との何気ないやり取りが後半のカギとなるが、そこまで親交を深めてましたっけ?とラストになって思い返すのだ。

看護師の朝陽は共闘関係というより、遺体としての栄治の状況を詳しく知っているという情報屋でしかない。サポートから抜け出て、麗子の生涯の心の友になるような信頼関係がこの一冊の中で仕上がったかというと、そうではなさそうだ。

麗子たちが対峙する男たちの砦は、麗子の腕力だけでは崩せないだろう。それを体現したラストになっている。さすがのスーパーウーマンも一人ではやっていけない。義理を立て恩に報い、秘密を共有するしたたかさも兼ね備え、カルティエを駆逐した頃より少しだけ優しさをまとった女性になったところでお話は終わる。

次回作の『倒産続きの彼女』は麗子の職場の後輩の物語だとのことだ。成長した麗子が心を許せる相棒を見つけられるお話ならいいなと思う。

 

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