【本を売るひと その2】出版社は「版元」。問屋は「取次」と呼ぶ書店用語を解説します。

書店と取次と版元と。

書店の内部に潜入してみると、やたら「版元(はんもと)」「版元さん」と見聞きします。

なんのことかと思えば、出版社を指す業界用語なのですね。

なぜ版元と呼ぶのか。そして、版元さんと書店をつなぐ問屋さん「取次」についても解説します。

「版元」とは

 

版元の起源は江戸時代まで遡る。

 

みなさんご存じの浮世絵。当代人気の歌舞伎役者や春画など。現在の金額で数百円ほどで手に入ったものだそうです。週刊誌みたいな位置づけでしょうか。

だとしたら大量に迅速に印刷する必要があります。絵師が一枚一枚描く肉筆画というジャンルも存在しますがこれは観賞用の部類。一般市民に届ける廉価版の印刷は、分業制だったとのこと。

絵師-絵を描く人-、彫師-木に絵を彫る人‐、擦師‐木版となった版木に色を置いて紙に刷りだす人‐。

学校の授業でやった(やりました?)木版画のあの作業を分担して行ったそうです。墨色だけの一色刷りから多色刷りに昇華して、より芸術性が高まったのはご存じのとおりです。

つまり版木を所有して、印刷して発送するところ。またはその業務を統括する組織。

それを版元と呼びならわしたそうです。出版社=版元、と一般的には言っています。

現在はイラストも文章もデジタル入稿、デジタル処理、印刷から発送までコンピュータの介在しない部門はないと思いますが、江戸の香りはまだ残っています。

 

初版と重版

 

版元さんは日々たくさんの本を新刊本として世に送り出しています。印刷製本した最初の新刊、それを初版と呼びます。

初速(初版本の売れ行き)が好調で、もうちょっと売りたいなー、という状況になったら出版社は「重版」するわけです。同じ本を再び印刷製本するということです。できあがったら「重版出来」(じゅうはんしゅったい・じゅうはんでき)です。

初速の状況を見るまでもなく事前予約が非常に好調なら、重版を視野に入れて初版を出しているかと思われます。

「重版出来は〇月〇日です」「重版分は〇月〇日搬入です」といった言葉を出版社から聞くことになります。それならうちには何日くらいに店着だなと、素早く計算するのです。

重版にはさまざまなタイミングがあります。著者さんが文学賞を獲ったとき。映画化されたとき。テレビ番組で大きく取り上げられたとき。著者さんがお亡くなりになったとき…。

最近はInstagramやTikTokでバズると、連動して素早く重版されるようになりました。売り伸ばしを計る版元さんが「送り込む」こともよくあります。ネットのトレンドに通じていないとどんどん後追いの棚づくりになってしまうのが現状です。

初版から3か月くらいまでが新刊、それ以上経過したのが既刊本。として区別しています。

 

版元の営業さん

 

営業さんはお店の棚や客層を見に、あなたの書店にやってきます。それは出版社の方が出張してくる場合もありますが、委託されているラウンダーさんが回ってくることもあります。

何が売れているのか。動きが鈍いものはなにか。どういう傾向が売れる店なのか(客層で大きく異なります)。このような店舗の状況を把握して、今後の営業や配本に生かしておられるようです。

欠本チェックといって売れ筋商品がない場合(欠本)、注文を受け付けますといった棚の管理もしてくださることもあります。(その業務はラウンダーさんがすることが多いようです)

営業さんですから、相手がプッシュしている新刊本・既刊本、フェア展開のお願いなどの提案もありますが、そこはさらさらと流れるように対応してください^^。

現場側からも要望を出します。初回配本(初版本の入荷数=入り部数)の希望をお願いする。大きく展開したい本や、難しそうな客注を聞き入れてもらう。

全ては信頼関係、人間関係ですね。どの世界でも変わりません。

全く同じラインナップの本が届いたとて、その店の棚のキャパや配置、立地や客層、書店員のクセなどによってさまざまな表情があります。

〇〇店では何が何冊売れているなんてことは東京のオフィスで確認できるのですが、それはどんな状況の店で売れたのかというのは実地でしかわからないものです。

コロナ禍がちょっと収まったころ、わざわざ東京から関西まで出張してくださった営業さんには頭が下がりました。足をお運びくださってありがとうございます、という気持ちです。

 

「取次」とは

 

取次さんは橋渡し役

 

星の数ほどの出版社と書店とを”取り次ぐ”役割の取次(とりつぎ)、販売会社ともいいますが、問屋さんをイメージするといいでしょう。

昔はもっと多くの取次がありましたが、出版不況のなか淘汰され今や2強です。

日販のロゴ

日販(日本出版販売株式会社)

 

トーハンのロゴ

株式会社トーハン

おおよそ、このどちらかの取次さんからの配本(仕入れ)を受けているかと思います。

配本は、自動配本というシステムがうごめいているのですが、後述します。

 

この2強以外に、専門取次と呼ばれる取次さんが存在します。

株式会社日教販

学参(学習参考書)などの教育関連図書をメインに取り扱う取次。

 

株式会社鍬谷書店

医学書系に強い取次。

 

地方・小出版流通センター

小規模出版社刊行の書籍を取り扱う取次。

 

株式会社三善(みよし)

洋書専門の取次。

 

こんな感じでまだまだあります。

このジャンルの本はどこの取次から仕入れるのがベストか、まずは職場の先輩に尋ねてみてください。

 

取次さんにどんなことを依頼するのか

 

版元=出版社のお仕事はなんとなく理解できるかと思います。ほかの業種と同じく、書籍や雑誌という商品を作り、販売する商売です。

では取次は本屋で働く人にとってどんな存在なのか。総合取次と書店は持ちつ持たれつ。書店ごとに担当の取次の社員さんがつくと思います。主にその方を通して、さまざまな依頼をしていくのです。

あなたは今後、取次の担当さんにどんな依頼をするでしょうか。

 

・新刊予約… お客様から「まだ発売されていない本」の予約を受けた場合。

わざわざあなたの書店で予約してくれたのですから、絶対に入荷してもらわないと困るわけです。予約したのに手に入らない。それはお店屋さんとして致命的です。信用にかかわります。

なんのアクションもしない場合、初回配本(本屋に何冊初版本が入ってくるか)がごくごくわずか、またはゼロということもあり得るのです。あり得るのですよ。

「予約が入ったので確実に当店に入荷するように手配してほしい」と依頼する、それが新刊予約です。

ここで直接版元に頼むこともあるのですが、取次の担当さんを通す場合が多いです。

日本全国の書店から何千何万とくる新刊予約の依頼を事前に取りまとめる。それが取次さんの仕事です。出版社側はその予約状況を鑑みて、初回刷り部数を決めるからです。

 

・定期改正…雑誌などを定期購読で購入するお客様のために確実に入荷確定する

定期的に発行される雑誌などを買いに来店してくださるお客様との契約が定期購読。これも確実に新刊入荷を希望する案件です。

とある雑誌に定期購読のお客様の増減があれば速やかに担当さんに連絡します。発行日直前の依頼は要望が通りにくいので、そのあたりの事情はお客様に丁寧に説明する必要があります。

新刊予約とも共通する点ですが、「発行日直前の新刊依頼」は難しいのです。上記の通り、取次さんは事前に版元さんに取りまとめたものを送信済みの可能性が高いからです。

この場合は「発売日以降に版注する」という対処をします。新刊入荷という扱いではなく、既刊の注文入荷という形です。発売日までは取次が取り扱い、発売日以降は版元が注文を受け付けるというのが一般的です。

ただお客様は知ったこっちゃない。発売日前に依頼してるのになんで手に入らないんだ、という不満をお持ちだと思います。ここがリアル書店の弱い部分です。お客様には平身低頭で臨みましょう。

 

・入荷時の本の汚れや傷み(汚損)の対応

2大取次のHPを見ると分かる通り、その組織は巨大です。全国津々浦々に本を届けるために、両社とも東京近郊に大きな物流センターを配しています。

オートメーション化の部分もあれど、箱に詰める作業は人力でしょう。毎朝の検品時にはいろんな個性の詰め方を見ることになります。

その際、本が傷んでいたら。物流センターが傷めたのか、配送時に揺れて傷んだのか、それとも版元工場からの入荷時には既に傷んでいたのか。川下の書店員には分かりません。

傷んだ書籍は店頭にも出せない。客注商品だとしたら、ゾッとする事態です。速やかに(写真を撮り)取次に連絡し代替品を送ってもらう必要があります。

 

そのほか、取次の担当さんは新刊本の取りまとめ情報を定期的に送ってきます。あなたのお店にその新しい本は何冊必要なのかを考えて希望冊数を入力送信する。過去データの調査と先読みの力でもって、取り組む仕事です。

 

本の魅力を発信するのがわたしたち

 

ネット書店の台頭もあり、毎月 日本国内どこかの本屋さんが閉店していると言われています。

それでも実際に本を見て選ぶこと、本棚が好きな人はたくさんいらっしゃいます。目的の本以外に寄り道して宇宙のごとく広い書籍空間を見て歩くことは、本好きならたまらない楽しみです。

多種多様な業種の中からマッチョな仕事の部類である書店勤務を選ばれたあなたでしたら、こんな実店舗としての本屋の魅力を体感しているのではないでしょうか。

出版社側も、自社HPや各種ネット書店での展開も重要視しているはずです。それでも書店がこれ以上消滅していくのは由々しき事態だというのが、共通認識であり基本的な業界の大前提です。

書店がお客様の気分を上げる棚を作らなければ、この業界の先は見えています。あなたもわたしも書店員のプロ。本のプロである版元さん取次さんの力を取り入れて、魅力的な書店にしていきましょう。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

 

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書店に勤めて数年経った頃、↑この本を読んで、著者の矢部さんに遠隔叱責されたような気分になりました。ちょっと働いてからのほうが内容が心に染み入ります。参考書替わりにどうぞ。

 

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