『くもをさがす』西加奈子 ひとを自分を、大切にするってこういうことかもしれない。

「くもをさがす」西加奈子

目次

くもをさがす 西加奈子 河出書房新社

常に愛を込めて、でも現実は辛くて重いことがたくさんある。そんな小説を世に送り出してきた西加奈子さん。今回のこの本は加奈子さんご自身について書かれた本です。

エッセイとしては激しすぎる。ノンフィクションと呼んで差し支えないかと思います。

2019年、加奈子さんは旦那さんとお子さんでカナダバンクーバーに移住しています。そこから

3年間ほど、それもちょうどコロナ禍のカナダで乳がんを見つけてしまった。

そこから始まる大変な治療。生きることを決して諦めないとはどういうことか。
一人で戦うことなどできないと思い知らされる一冊でもあります。

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西加奈子氏 プロフィール

1977(昭和52)年、イランのテヘラン生れ。エジプトのカイロ、大阪で育つ。2004(平成16)年に『あおい』でデビュー。翌年、1 匹の犬と5人の家族の暮らしを描いた『さくら』を発表、ベストセラーに。2007年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。その他の小説に『窓の魚』『きいろいゾウ』『うつくしい人』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『地下の鳩』『ふる』など多数。(新潮社HPより)

あらすじ

2021年5月、カナコさんは何かの虫に噛まれた。バンクーバーの病院に向かう。それは毒性のない蜘蛛に噛まれたとの診断で、塗り薬をもらうだけの処方だった。

ただ彼女は数ヶ月前から気になっていたことがあった。それが右の胸のしこり。それを医師に告げる時の迷いも読み取れる。でもそのために病院に来たとも言えるのだ。

勇気を持って診断をお願いした。彼女は生体検査を受けることになる。
検査の結果は乳がんだった。浸潤性乳管がんというがんだと診断がついた。

日本に帰国して治療してもらうべきか。
コロナ禍の日本は当時、帰国後2週間の隔離が課せられていた。そこからの診察検査となると一体いつ治療が始まるのかがわからない。
カナコさんは覚悟を決める。一旦流れに乗れば高水準の医療が受けられるバンクーバーに命を託したのだ。
ここからカナコさんが治療する姿を、読者も追体験することになる。

蜘蛛のこと

冒頭、カナコさんの亡くなった祖母の話がある。

祖母は蜘蛛を「弘法大師の使い」だと信じ、カナコさんも頭の片隅に置いていた。その蜘蛛がバンクーバーのアパートメントでカナコさんの足を噛んだのだ。
生検をした時期、日本のお母さんから電話があったという。おばあちゃんが笑いもせず夢枕に立ったと。

蜘蛛はおばあちゃんからの合図、またはお叱りだったのかもしれない。
病院に行くことを先延ばしにする孫カナコさんをなんとか奮い立たせた。それが蜘蛛だったのだ。

『くもをさがす』というタイトルに込められたのは、亡き祖母からのメッセージを受け取り
病気を戦い抜いたカナコさんの見つめる先のようだと思った。

「くもをさがす」西加奈子

総合診療医

カナダはアメリカと同じく総合診療医(ジェネラリスト)が最初の窓口となって診察するプライマリ・ケアが一般的だ。
ホームドクターとも呼び、通常であれば心強い主治医だ。ちょっと調子が悪い時には、日本のように素人判断で専門医(スペシャリスト)を渡り歩く必要がない。ホームドクターに適切な医師を紹介してもらえるのだから。

ただ弊害もあるようだ。明らかに何科に行けばいいのかわかる場合でも一度総合診療医を通さなけば
話が進まない。主治医の紹介状や予約がなければ専門医に繋いでもらえないそうなのだ。

この回り道のシステムで、カナコさんのカナダの友人たちも相当苦労したことが書かれている。明らかな膀胱炎なのに診察が数ヶ月先だとか、予約して訪れているのに本当に予約はあるのかと病人に詰め寄る医療側とか。

日本に住んでいると日本の医療の脆弱さばかりが目につく。
多忙な医療従事者が患者を顧みない現状。
診断がつかず、各科をたらい回しにされる焦り。
海外では承認されている薬が入ってこない苦悩など。

医療大国であるカナダでのカナコさんの闘病を読んでいると、そこにはまた違うしんどさがつきまとっているようだ。
自分にとって正しい治療に辿り着くのは並大抵ではない。
たとえ重病であろうと自分の意思をしっかりと伝えなければ自分の命は助からない。

その上、両乳房全摘手術が日帰りなのだ!
カナコさんはドレーンと排液バッグを身体にぶら下げたまま病院を出、薬局で自分で薬を貰い帰宅したという。
カナコさんのこの体験、本当にしんどそうだが滑稽でもある。がんだろうとなんだろうと、合理的に判断される場所。医療はいちサービスでしかないということかもしれない。本当の自己責任はこういうことなのかなと思う。

どちらがいいなんて言えないけれど、住んでいる場所で最良の方法を見つけていくしかないのだ。
そしてそこに楽しさや幸せを見出して生きる喜びに変えることができたなら、サバイブしたと言えるかもしれない。

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カナコさんの友だちの連帯

カナコさんの治療の経験は辛さを文章に変え、こうして書籍として世に放つことで昇華したようだ。
それはご自身の生きる力の賜物だと思う。

その上で、周囲の人びとの助け無くして臨めない試合だろうとも思う。
がんの宣告を受けてすぐ、カナコさんはバンクーバーの友達、日本の友達にそのことを伝えた。

おかげで家族はもちろん、友人知人たちが一丸となってカナコさんを支え続けている。
病気は一人で耐えるものではないのだ。そこだけでも私はカナコさんの真似をしたいと思う。

抗がん剤治療の渦中、友人たちが作った食事を食べている描写がある。そこがとても良い。
Meal trainというご飯を届けてもらえるシステムを友人たちが構築し、術後までの半年間続いたそうだ。

私は、デヴィットが作ったうどんを食べ、マユコが作ったハンバーグを食べ、チエリが作ったお好み焼きを食べ、ヨウコが作ったおいなりさんを食べ、ナオが作ったキンパを食べ、アヤが作った炊き込みご飯を食べ、クリスティーナが作ったサラダを食べ、メグミが作ったおでんを食べ、ユウカが作ったボルシチを食べ、キットが作った魚のグリルを食べ、ケンタが作った麻婆豆腐を食べ、アマンダが作ったパスタを食べ、マリが作ったラザニアを食べ、マイクが作ったスープを食べ、チェリシュマが作ったカレーを食べ、ジョーが作った韓国風のおにぎりを食べ、ファティマが作ったローストチキンを食べた。

「くもをさがす」西加奈子 河出書房新社より

『人の作ったご飯、の力』とカナコさんは書いている。『ご飯以上の何かだった。私の身体を、内側から動かすものだった。』と。

バンクーバーは移民の街だから、お互いに助け合わないと生きていけない。日本で治療していたらこんなに人に頼らなかったかもしれないとカナコさんはいう。
日本では自分のことは家族の中でなんとかすべきだという暗黙の了解があるからだと。

闘病している友人に、果たして私は自分の手料理を届ける自信と勇気があるだろうか。簡単なようでいて、人のお宅に踏み込むのだという怖れも感じるのだ。
怖れも遠慮も乗り越えておせっかいする気持ちがもう少し私にも備わればいいなと思う。

『あなた』への物語

これは「あなた」に向けて書いているのだと気づいた。どこにいるのか分からないあなた、何を喜び、何に一喜一憂し、何を悲しみ、何を恐れているのか分からない、会ったことのないあなたが、確かに私のそばにいた。』

「くもをさがす」西加奈子 河出書房新社より

手術の際、私から乖離していたかのような「ニシカナコ」が看護師の呼びかけによって戻ってきたというエピソードがある。それだけ辛さを内包していたということだと思う。
これらの極めて個人的な体験を記すうえで、家族でも友人でもない読者をどこかで感じていた。作家としての使命が執筆を進めたのかと思う。

その上で『私に起こった美しい瞬間』は書かなかったとも彼女はあとがきで述べている。
「美しい瞬間」。指折り数えるほどしかないその美しさは「あなた」が胸に抱いたままでいいのではないかと。そうかもしれない。全てをSNSで打ち明ける必要はないのだ。

カナコさんがカナダで体験した美しくも壮絶な経験の一部始終を読ませていただいた。自分とその周囲に優しくあることの難しさも知った。その上で愛を持って接することがどれだけ人を癒すのかということも読み取れた。

「あなた」は誰にでも当てはまる。自分が、周りの人がなんらかの窮地に立たされた時にどう行動できるのか。カナコさんたちのチームのような緩やかなつながりは、きっと私たちも持っているはずだ。それを実行するかしないかも自分で決めていい。

ただ気持ちを込めてハグすること、それだけでも心に残る。宝物のような時間が生まれるのだ。それを知っている人はきっと幸せだ

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