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『マチズモを削り取れ』武田砂鉄氏 ジェンダーについて考える第一歩。

マチズモを削り取れ 武田砂鉄 本が読みたくなる

ジェンダー論を読み込む、となるとちょっと敷居が高いな。しかしこの世で感じる「性差」について思うことはあるんだな。いや、あるんだなどころではない、憤慨していること、秘かに涙を流していることもあるだろう。

そんな皆さんにぜひ読んでいただきたい本です。

砂鉄さんは男性です。背の高い男性だそうです。砂鉄さんはなぜここまで「何気ない差異」について敏感なのか。それにも驚かされつつ読みたい本です。

『マチズモを削り取れ』武田砂鉄氏 集英社

 

冒頭からぶっ飛ばしている。書籍を出すという仕事上、同業者ともいえる百田尚樹氏のツイートを「愚劣」と断罪している。

MeToo運動に参加した男性の国会議員に対し、百田氏は「なぜ彼がプラカードを掲げているのか。(何らかの被害を受け)たからか」という内容のツイートをした。

ただそれを見て不愉快に思った人々は「なぜ不快なのか」を掘り下げない。彼に反応するだけ無駄だ、というのも一因だろう。

そこで砂鉄氏は問う。「なぜ、そのままにしておけるのだろう。」

ここで読者はハッとする。なぜわたしは百田氏のツイートを読み流そうとしたんだろうか。その感覚を言語化するのが砂鉄氏の仕事であり本書の趣旨だといえる。

砂鉄氏はこう考える。百田氏は、本質的にセクハラ問題に男性が賛同するのは違和感があり、賛同するならそれ相応の被害を被っていることが条件になる、と考えているのだろう、と。

なぜ男性がこの問題を自分ごととして考えていないのか。女性だけが声を上げ続けているのか。本書にはさまざまな「そのままにしてきたこと」が提示される。感情にふたをしてツルリとした顔で日々を過ごすこと、それが処世術となっている私たちにグサグサと突き刺さる。

 

混雑する新宿駅構内で女性にわざとぶつかっていく男の映像

一人で歩く女性を狙って体当たりしていく男。体当たりされた女性が声を上げれば被害がもっと深刻になるかもしれない、自分が孤立する可能性も高い。だから女性は黙ってしまう。

動画上には男に対する批判的なコメントの中に男の人生を推察する言葉が並ぶ。「仕事でむしゃくしゃしたのだ」「上司に叱責されたのかもしれない」仕事でむしゃくしゃしているのはみな同じ、理由があったとしても許されるはずがない。男に少しだけ寛容になる論調はなぜなのだ。

さらに砂鉄氏は考察する。仕事に不満があるなら同等に働いても男性のように昇進昇級しにくい女性が体当たりしてもおかしくないのではないか。これは新たな論だ。賃金体系の推移の具体例を挙げ、その理不尽さを読者は目の当たりにする。

マチズモを削り取れ

女が台頭すると「男だって大変」という意見のすり替えが起こる。

セクハラ問題に対して、雇用機会に対して、果ては痴漢に対して、一度は同意しておいて、でも「男も大変なんだ」「痴漢の冤罪はどうなるんだ」と論点を変えてくる人々について語る。

砂鉄氏「むしろ、人生狂わされているのは痴漢冤罪のほうなんだよと強気になる。いつのまにか、どちらが大変かで争おうとする。」「その争点、どこから持ってきたんだ。」

ここを読んで砂鉄氏の軽妙だが決してぶれない意見に更に得心がいったのだ。

砂鉄氏はこうも言う。「減るもんじゃないでしょ?という愚かな問いには、「減る」という回答のみでいい。いや、答える必要なんてない。」

そうなんだよ!心がどんどんすり減るのを我慢して電車に乗らねばならない。それを寛容に受けて止める世間がおかしい。…と、この項を読んで気づかされるのだ。

結局痴漢がないなら冤罪も発生しないのだから、「撲滅すればよい」という結論に落ち着く。その罪を見た他人は通報する、助ける。そうやって団結すればいいのではないか。「男と女は半分ずつなのにおかしいよって、おかしいのはオマエだよ。」と砂鉄氏。溜飲が下がる。

 

密室に二人きりの状況

犯罪的な意味合いだけではない。本書で例として挙げるのは不動産の取引の時だ。

女性が一人暮らしをするとなって男性の担当者と共に内見する。共に車に乗り、部屋という死角に二人きりでいることへの不安。自意識過剰だと思われても気は張らねばならない。

さて女性が一人で住むにあたって、1階は避けたほうがいい。オートロックなどセキュリティがしっかりした場所に住むべきだ。お金は上乗せされるけれども。

男性よりも低賃金を余儀なくされている女性はなぜ防犯にこれほどまでにお金をかけなければならないのか。読者はだいたい思うだろう。「世の中そういうものだから」。

ここで砂鉄氏は表現を変えながら同じことを繰り返す。

「そんなの考えすぎのイチャモンで済まされそうだ。その片付け方がマチズモなのです。」

 

マチズモを削り取れ

マチズモと世間話

この本を読んで思い出すことがある。自身や周囲が結婚するしない、子どもがいるいない、この本にも出てくる結婚式を挙げる挙げない…といった周囲の人たちの話だ。

これらは雑談やおしゃべりの一環で出てくる話題として扱われることが多い。

自分たちは式など金がもったいないと思っていたのだが、妻側のおかあさんに結婚式を挙げて欲しいと懇願されたので、親孝行のつもりで頑張って式を挙げた。

全然結婚しないので、親戚のだれそれにえらく嫌味を言われた。

子どもができないなら、それ相応のところに一緒に行きましょう。

どれも古風で強固な圧力が見え隠れ、いや隠れてなどいないパワーで抑え込まれる。平成や令和になってもこのバランスは崩れないのだ。

雑談として聞いている側は「それは大変だったねえ」「全力で拒否りたいなあ」としかいえない。そこはプライベートの領域でもあるのだ。外野はそっと背をさすってあげることしかできない。

そうして累々と続いてきたマチズモで特に弱者が疲弊するのだ。なんら改善することのなく「世の中そんなもん」と言いながら生きる。

それを少しでも打破したい。スルーしている当たり前の大問題を考えないと「ジェンダー後進国」からは逃れられないんだ。

砂鉄氏の何度でも訴えかけえる「それはマチズモ。男の優位性に立った思想に取り込まれているのだ」とのサジェスチョンを自分のこととして取り込まなければ、”削り取れ”やしないのだ。

この本を読んでからというもの、男性サイドの旧態依然とした考え方も気になるが、女性たちも強固な受容思想にとらわれていることに気が付く。

キャリアウーマン系雑誌の読者の発言欄を読んでいると「嫁にもらってくれた」と堂々と記載されているのだ。時は令和である。

気が付かなかったことに気が付いていくこと、これがジェンダーについて考える第一歩なのだ。

 

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