【本を売るひと その8】書籍の発注で大切なのは予測を立てること。

発注でたいせつなこと2つ

書店員稼業にも慣れてきたあなたでしたら、棚に並べる書籍の発注も任され始めるのではないでしょうか。

先輩は常にそばに居るわけではありません。あなた一人で判断して発注する時がきます。出遅れると競合他社に売れている本を持っていかれますよ。

発注のノウハウは幅広く持っていて損はありません。

目次

棚分の発注の基本

 

着地点(希望冊数)は遠くに設定

客注の場合はお客様ご希望の冊数の注文がメインだと思います。自店舗の棚分の発注となるといろんな計算をしなければなりません。

例題.  書籍「○○」著者A、初回配本7冊だった。A氏の固定ファンの方々がまずはご購入。残5冊。

あなた『前評判も良く、A氏の前回の新作も単行本で10冊売れている。新聞などのメディアに書評も出そうだな。書評で興味が湧く方も見込んで、少なくともあと7~8冊は追加しておきたいところ』

ここであなたは「8冊 注文」したとします。

版元への注文なら10日くらいの後、入荷したのは「5冊」、運悪ければ「3冊」…

これはどういうことなんだろう。

客注分でない限り、弱肉強食の法則が適用されます。もっともっと大展開して何百冊も売ってくれるターミナルにある大型書店に持っていかれます。(ターミナルは一例…(^^;)

あなたが本当に希望した冊数よりも上乗せした数字を発注してはじめて、なんとか「8冊」確保できるのです。

例題の場合、あなたが注文すべき冊数は「10冊」や「13冊」くらいが目安です。

そんなに要らんけど。とか何とも歯切れが悪い注文数だな、とかいつも思います。

返品率も気にしながら、それでも大きく注文する勇気が必要になります。

目指す着地点は遠めに設定するのが肝なのです。

 

見込みを立てる

置いておけば売れる著者、東野圭吾氏とか林真理子氏とか。今野敏氏とか宮部みゆき氏とか。村上春樹氏とか。

そんなビッグネームなら、事前注文で予測を立てて初入荷時から一定数を確保していると思います。

大御所作家さんたちに身をゆだねているだけでは生き延びられません。そして大御所だけの棚は「どこにでもある棚」になっていきます。ベストセラーとの兼ね合いも考えて発注する必要があります。

あなたが担当するジャンルにもよりますが、YouTubeで何がきているのか、社会や政治情勢はどうなのか。トレンドはどっちを向いているのか。さまざまな角度を考え、お客様が何を欲しそうかをできるだけ事前に見極めて発注していく。

それができればすごいですよね…

テレビ番組で紹介された本や人物が突然大人気になったりもします。朝の情報番組を見てそのあと来られる場合も多いです。少ない在庫は無くなり、慌てて発注したりもよくあることです。

朝の番組の時間にはわたしたち働いているので、全然知らないわけです。

そして訃報。作家さんだけにとどまらず、著名人や政治家にも及びます。”訃報ビジネス”はなかなか難しいですが、生前愛されていた方であるほどロングランで棚の一角を占めていることが多いです。当然といえば当然。

 

棚分の発注 その方法

一般的な取引の発注 電話での発注

注文方法は客注となんら変わりません。

「取次出版社名簿」や出版社HPの書店用電話番号などで調べて電話を掛けます。

 

1.名乗る。

書店名(支店名)と自分の名前を名乗る。

 

2.書名とISBN、何冊必要か。を告げる。

電話の相手は受注のプロなので、ややこしい書名でも素早く在庫の有無を調べてくれます。

 

3-1.在庫がある場合→発注 

版元側「番線コードをお願いします」

書店側「(あなたの書店の番線と書店コード)」

版元側「〇月〇日搬入です」

版元側「短冊に記載することはありますか?」と問われることもあります。

短冊は七夕の短冊を思い出せばOKです。今回は補充分なので特に記載事項もないかと思います。

これで注文完了です。

 

3-2. 在庫がない場合

   版元側「〇月〇日重版予定です」  

書店側「搬入日はいつ頃ですか」と問い、そこから店着日を類推する。

版元側に希望冊数を注文します。

 

   版元側「返品待ち保留です」  

棚分発注の時は、客注とはスタンスが違います。

何が何でも棚に並べたいんだ!という気概の場合以外はあきらめることが多いです。

 

発注方法は、客注のページでも詳しく解説しています。

 

一般的な取引の発注 WEBでの発注

 

客注同様、WEB上からの発注が主流となっています。

 

s-book (小学館、集英社など40社以上の出版社の商品を発注できる)

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ブックインタラクティブ  (新潮社、文藝春秋など70社以上の出版社の商品を発注できる)

Bookインタラクティブ
Bookインタラクティブ 全国約5,000店舗を超える登録書店からオンライン注文を受ける仕組みです。

 

WEB ホットライン   (KADOKAWA の発注専用サイト)

 

WEBまるこ  (講談社の発注専用サイト)

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etc…

サイトの表示方法はそれぞれですが、以前に注文した書籍の履歴、発注したものの輸送状況と冊数が分かります。ダブって発注しないように履歴確認をお忘れなく。

 

講談社さんなどは新刊事前注文ができる場合もあります。全ジャンル網羅した表が講談社さんからWEBで送られてきますので、それに希望冊数を入力して(各ジャンルさん入力したか確認してね)送信します。

取次さんからの希望冊数承りフォームなどもあるかと思います。これも前回の販売数から予測を立てて希望冊数を入力送信します。

多忙な中、パソコンに張り付くのは本意ではないですよね。でもここでちゃんと発注しておかないと、近い未来のあなたの店の棚はカッスカスになります。恐ろしいですね。

 

一般的な取引の発注 FAXでの発注

WEBに置き換わりつつあるとはいえ、FAXもどんどん溜まっていってるのではないでしょうか。

注文方法はシンプルです。希望冊数を書いて、番線印を押す。FAXを返信する。以上です。

出版社の規模がそれぞれなのはあなたも感じていると思います。小さな出版社がWEB構築して発注を承るのは難しい。同じく昔ながらの本屋さんがWEBを駆使するというのは代替わりしないと無理な気もします。双方のメリットもあって、まだまだFAXは健在です。

にしても紙が大量に吐き出されるわけです。毎日見るのは本当に大変。受信した以上は確認しておきたいし、そこに新鮮なネタも紛れ込んでいるのです。

特に新刊案内、芥川賞直木賞、本屋大賞などのノミネート作品や受賞作品、著者の訃報に際しての関連書籍の案内など、痒い所に手が届くのもFAXのいいところなのです。

 

直取引の発注

 

永岡書店

 

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児童書、生活実用書の永岡書店 児童書と生活全般の趣味、雑学、心理学等の実用書を主にした出版業務を担う永岡書店のオフィシャルWebsiteです

児童書や実用書に強い出版社です。

年の後半になると手帳やカレンダーが書店を賑わしますが、永岡さんはたくさんそれらを出されています。

入荷形態は、宅配業者による直接入荷。ダンボールでどどんと送り込まれることがほとんどです。取次さんを介さないのです。

ですので、ダンボールの中の伝票は取次さんのそれとは別の形状のはず。入荷商品のチェックも必要となります。

何が何冊入るかは書店と永岡さんとの契約によります。粛々と荷ほどきしてください。

返品はできますが、通常返品とは全く別ルートです。取次返品の箱に紛れさせないように注意が必要です。

 

ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

ディスカヴァー・トゥエンティワン...
ディスカヴァー・トゥエンティワン 「視点を変える、明日を変える」ディスカヴァーの公式サイトです。書籍、プロフェッショナルが愛用する手帳、オーディオブック・映像などのデジタルコンテンツを提供してい...

ビジネス書や自己啓発書に強い出版社です。

こちらも永岡さんと同様、直接送り込まれます。返品ルートに関しても同様です。

発注はs-bookやBookインタラクティブで注文できますが、送付は宅配業者による直接入荷です。

 

トランスビュー

 

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日本国中、小さな出版社はたくさんあります。そんな版元さんを網羅し直接入荷や取次経由で卸してくださるのがトランスビューさんです。

こちらも買い切り返品不可です。

 

 

ミシマ社

 

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ミシマ社 ちいさな総合出版社

基本、完全買い切りが京都の出版社。常設コーナーが設置されている書店さんもありますね。

「ちゃぶ台」というミシマ社の雑誌もそっと置いているとそっと売れていきます。

発注は直接電話やFAXで。宅配業者による直接入荷です。

 

一冊!取引所

 

一冊!取引所
【公式】一冊!取引所 | 受発注がたのしくなる出版クラウドサービス 書店と出版社の現場をつなぐ。取次経由でも直取引でもご利用いただけます。直取引のクレカ決済機能も!

ミシマ社さんが日本の本と本屋さんを未来につなぐ取り組みをされています。

書店の規模から計算して自動的に送り込まれる商品。

売り上げに関わらず毎月やってくる支払期日。

それらの商慣習を見直し、ミシマ社さんが立ち上げたプラットフォームです。主に取次との契約がない小さな本屋さんにとって書籍を仕入れやすくなるのです。

一般的に取次と契約するとお金の流れはこんな感じです。

〇月入荷した書籍全部で仕入れ10万円分、全部売れたとしたら売り上げ15万円。

翌月の指定日、〇月の10万円を取次に支払う。

 

書籍は生鮮食料品とは違い、”返品”できるという商慣習があります。しかし支払期日には入荷した全ての金額を一旦納めなければなりません。

仕入れたら払うのは当然ですが、仕入れた書籍が100%売れることは皆無です。

毎月火の車のお店だと資金繰りがショート、小さな書店がどんどん閉店に追い込まれるのはこの制度も理由の一つでしょう。

ならば一冊一冊吟味して、仕入れる。一冊一冊に責任と覚悟を持って売り切る。その気概がある小さな本屋さんならこの一冊取引所は画期的だと思います。支払いは(通常のネットショップ同様)クレジットカード決済も可能になったそうです。

取次搬入も可能なので規模のある書店から、小規模店舗までつかいやすいプラットフォームなのです。一冊!取引所の詳しい流れはこちら↓

素晴らしい取り組みだなぁ…と思います。

 

発注のまとめ

 

発注手段はいろいろありますが、注意点は2つ。

取次ルートでやってくる発注は、希望冊数を削られることを加味して注文する。
直取引は最短数日で店着するが、基本買い切り返品不可。

 

発注することは想像すること。

予測を立てる
どう展開するか考える

 

お店にやってきた本たちは、できれば全てお客様の元へ旅立ってもらいたい。だれだって返品したくはないのです。

しかしそうもいかない。それならできるだけ返品数を減らしつつ、お客様に失望されない冊数を上手に確保するのか。お店に滞在しているお客様にどれだけ楽しんで頂くか。

どんなにベテラン書店員さんでも究極考えているのはここに尽きると思います。

 

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。お互いに知識を補充して書店に向かいましょう‼

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