書店員に必須のアイテム、番線とスリップ。番線印(番線を記したはんこ)は今のところ生き残っています。ただスリップレス化は進行していますね。POSシステムが広がって、アナログな発注方法が淘汰されていく書店業界。番線の働きとスリップの現状を見てみましょう。
番線印とスリップ、その行く末
番線と書店コードとは
版元さんに発注する際に必ず言うのが「取次と番線とコード」。この3つだけであなたのお店に本が届く、便利システムですね。
取次は【本を売るひと その2 】でご説明した本の問屋さんです。
番線は取次さんがひとつひとつのお店ごとに発行したナンバープレートだと考えてくださいね。取次さんはこのナンバープレートひとつで確実にあなたのお店に注文品を届けてくださるのです。
番線という単語の由来には諸説あるようです。
なるほどなるほど。
番線印
写真を添付したいところですがさすがに実物を載せられないので架空の番線印を作ってみました↓
←番線番号
←書店コード
注文書をFAX送信する時、版元の営業さんが御用聞きにいらした時。必ず押すのがこの番線印です。
取次の何々を通して○○県架空市のsuisuibooksに配送してください。という情報がこのハンコひとつで提示できるのです。
書店コード
日販さんは 00-0000 (東京は1から始まる3桁-0000)です。最初の2桁が都道府県を表します。
トーハンさんは(北海道1 東北2 関東3 北陸4 東京9 中部5 近畿6 中国四国7 九州沖縄8)から始まる数字5桁。ただ、山梨や長野も4で始まっていたりと例外もあるようです。一般的な地方区分で分かれていない場合もあることをご承知おき下さい。
日々発注するにあたってほかの書店の番線番号を知る必要はないのですが、番線とコードって大切なものなんだということがお分かりいただければ幸いです。
スリップはどんどん減っていく
立ち読みしてると(笑)悪名高いスリップ。書店員になる前は”ただの邪魔な紙”としか思っていなかったです。
書店員側から見たスリップは、本当に大切なものです……でした。今や過去形なのですが。
本をご購入いただいた際、このスリップは書店側が回収します。
一日の精算をし、集まったスリップをジャンルごとに仕分け。本日は何が売れたのか、何を追加発注するべきかを考え考え番線印を押し、日付と注文部数を書き込み、版元さんに送付する。
商品到着までなかなか時間がかかっていたんだな、と思う次第です。
ただ今やスリップは少なくなる一方です。その先駆けは講談社です。
講談社コミックスと文庫。スリップレス&フィルムパック
講談社コミックがスリップを入れずにパッキングした状態で出荷を始めたのが2013年11月からでした。最初からフィルムがかかった本が入荷したのです。当時の反応を見てみると、
「レジでフィルムをはがす手間がかかる」
「スリップはなぜ廃止になったんだ!! POSが充実していない店舗のことを考えていない」
「入荷冊数分の疑似スリップを作った」←すごい
とコミック担当書店員さんの嘆きが伝わってきます。
その後、2021年4月から講談社文庫とタイガもスリップレスのフィルムパック仕様での出荷が始まりました。この形態での書籍流通が認識されたと講談社さんは考えたのかなぁ。書店側としてはもやもやしています。
試し読みができない
文庫を立ち読み読破するお客様、いらっしゃらないわけではありませんが(^^; コミックに比べればごく少数です。小説などは冒頭の数行や数ページを試し読みして、面白そうか、文章のフィーリングが合うかを確認すると思います。それが購入判断になります。
フィルムでびっちり包んでいる文庫本では試し読みが、全くできない。
試し読みに関しては、フィルムをはがして見本としておくこと、その本の返品を了承すると講談社さんから後日連絡がありました。
実際、私が勤める店舗では見本は作っていません。理由は主に2点です。
・新刊ラインナップ全ての点数の見本を作る手間がかかるため。
・既刊本となり棚に差し1冊となったらフィルムありのものを差すため。
ここでお客様が「中を見たいです」とおっしゃられたなら快くフィルムをとります。ただ積極的に訴えるお客様は多くないということも、講談社さんにはご理解頂きたいものです。
レジ業務の煩雑さ
レジ業務では、2013年の嘆きと同様です。ブックカバーをご所望のお客さまの場合、カッターを入れなければフィルムははがせません。後ろ中心にミシン目があるのですが(最近は無いみたい…2024年)、本をかなり湾曲させなければミシン目は広がらないのです。文庫はB6サイズコミックよりも小さいですし。お客様の所有物なので曲げたくないのが書店員の心情なのです。
ネットで裏技検索をしてみると、爪切りで上部のフィルム余りを切り取ってはがす、値段シールに指をひっかけて対角線に両指をスライドさせる。とどれもこれも涙ぐましいです。レジで爪切り使えないし。
結局、本体を傷めず早急にフィルムを取るのは至難の業だということです。
奥付(おくづけ)記載なく戸惑う
2021年の開始当初は発行年月日の記載もなく、返品の判断をする難しさも伴いました。長く棚に差したままの本を抜き取り返品するのは日常業務です。長らく動いていない商品は社内システムで抽出することもできるでしょう。
新刊や既刊が入ってくれば、棚を新陳代謝させる必要は常に出てきます。社内システムで売れ行き動向も見ますが、棚で現物を見て判断することも多いです。パソコンに本の傷みまでは記載されていませんから。
奥付(発行年月日や重版再販の記載)を見て、返すべきか残すべきか瞬時に判断するのも書店員の仕事なのです。
その後、講談社さんは発行年と発行月を背表紙シールに記載するようになりました。重版したかどうかまでは やはりわからないんですが。
スリップレス化の波
講談社さんばかりやり玉にあげてすみません(^^;
さすがにフィルムパック化まではされませんが、各社ともスリップをどんどん廃止しています。
こうなると売り上げをスリップ頼みにすることはできなくなりました。でないとスリップレスの版元の本は売れていなかったことになる。
当然POSシステムが相当流通していると各社判断し、スリップでの発注も少数派となったことを受けての流れだと考えられます。
自動発注というシステムが各書店で機能していると思います。1冊売れたら同じ本が1冊取次から自動的に入荷するシステムです。このおかげで”画一的な棚”は担保されるというわけです。
そこを踏まえた上で、あなたのお店の立地と客層と日々の潮流を考えて、追加で発注をする、仕掛けていくというのが本当の書店員の仕事でもあります。
書籍発注の未来
今後ますます書籍の発注はネット上でのやり取りに終始すると思われます。FAXという紙要素も縮小していくでしょう。
入荷した書籍たちを棚に並べたら後はパソコンに張り付いて、売り上げ確認をしたり、発注したり。そんな本屋さんばかりになったら、そりゃ衰退します。
棚は触ってなんぼなのです。ずり上がった本のカバーと帯を定位置に戻し、スリップがゆがんでいたら直し、本の上部のホコリをとり、棚のホコリもササっとして、本を並べ直す。
私も日々多忙で、追加発注しなきゃとか接客対応・電話対応にレジ業務と、本来の棚の仕事がおろそかになりがちです。そんな戒めも込めつつ、今回の記事を書きました。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。お互いに知識を補充して書店に向かいましょう!!